放牧など自給粗飼料100%で生産した肥育牛骨格筋組織の組織科学的解析

           小笠原英毅1・畔柳正1・渡邊康一2・三宅雅人2・大和田修一2・麻生久2・山口高弘2・萬田冨治1
                             北里大獣医FSC八雲牧場1・東北大院農2

背景および目的

慣行肥育牛と比較して、放牧など自給粗飼料のみで肥育した牛では、抗ガン作用、免疫増進作用などを持つ共役リノール酸(CLA)含量が有意に高く(左図)、過剰摂取で様々な障害を起こすリノール酸(n-6)とその拮抗作用を持つリノレン酸(n-3)の構成割合(n-6/n-3比)は著しく低い(右図)。
筋線維型の構成割合は環境および栄養状態などによって変動するが、放牧など自給粗飼料100%で肥育された牛の筋線維型割合は十分に解析されていない。したがって、本研究では、放牧など自給粗飼料100%で肥育された牛の骨格筋の組織構造と筋線維型割合を解析し、自給粗飼料肥育牛の骨格筋の生理学的特性を明らかにすることを目的とする。
骨格筋は筋束の、筋束は筋線維の集合体である。筋線維には主にⅠ、ⅡA、ⅡB、中間型の筋線維型が存在し、それぞれの骨格筋において一定の割合で構成され、その生理特性を発揮する。また、それらの構成割合は環境や栄養状態によって変動し、赤色筋線維(Ⅰ+ⅡA型)には脂肪燃焼作用を持つカルニチンが多く含まれることが知られている。


放牧肥育終了後の粗飼料肥育牛(3頭:30〜34ヶ月齢)の枝肉断面および下腿部より、胸最長筋(ロース肉)、胸腹鋸筋(バラ肉)、半膜様筋(カレー用等の肉)を採取した。採取後、 3cm3角に整形し、ドライアイス・アセトンで急速冷凍後、凍結切片を作製した。作製した凍結切片は組織化学的解析に用い、筋線維型の割合および筋線維の直径を測定した。

結果


粗飼料肥育牛の骨格筋では胸腹鋸筋において筋線維間に結合組織の存在が認められた(図3)。筋線維間の結合組織の有無は牛肉の硬さに直接的に関係する。
 次に筋線維型の構成割合を解析し、免疫組織化学的に筋線維型はⅠ型およびⅡ型もしくは上段・下段どちらの筋線維も染色される中間型に大別された(図4)。しかし、検出感度が大きく、詳細な解析が不可能なため、酵素化学的染色法により、筋線維型の構成割合を算出した(図5, 6)。
 粗飼料肥育牛の筋線維型割合は胸最長筋、半膜様筋では慣行肥育牛と同様であったが、胸腹鋸筋ではⅡB型が著しく減少し、Ⅰ型が増加した(図6左図)。また、筋線維の太さは慣行肥育牛と比較して有意な差は認められなかったが、粗飼料肥育牛では胸腹鋸筋のⅠ型筋線維の太さに大きなばらつきが見られた(図6右図)。このことを解析すると、胸腹鋸筋のⅠ型筋線維には小型で濃く染色される筋線維(ⅠA型)と大型で薄く染色される筋線維(ⅠB型)が観察され、ⅠB型筋線維は慣行肥育牛より高い割合で存在した(図7)。

まとめ